その人の精神と運転はここまで一致するんだと驚いて磯じ◯んの商品を買ってしまった話
今朝の話です。
道を歩いてたら後ろから大きな高級車が走ってきました。スピードといいその見た目といい、いかにも横暴な印象で、自分が免許を持ってないせいもあってか、
「道は車のためにあると思ってんだろうなぁ、こういうドライバーは」
と、心の中で毒づいておりました。
その直後、今度はなんだかものすごく遠慮気味な車が走って来ました。
「同じ運転でも違うもんだな」
と思って見たら、白い車体の側面に「磯じ◯ん」と。どうやら社用車のようです。
運転のジェントルさと社名の古風さがあいまって、意味もなく
「磯じ◯ん好感度アップ」と心で呟きながら駅へ向かいました。
さて、それから数時間後、用事を済ませた私は、先ほどの道にほど近いスーパーへ立ち寄りました。カゴを持って店内を進むと、気弱そうな若者が試食販売をしております。
いかがですか~と声をかけることもなく、行き交う主婦たちを見送っております。
「きっと新入社員なんだろうなぁ」
と思いながら、私も目を合わせないように青年の前を通り過ぎます。すると背後で、
「磯じ◯んの△△△、いかがですか~!」と威勢の良い声が聞こえます。
「話しかけるのはできないけど大きな声は出せるんだなぁ。きっと会社で研修してきたんだろうな・・・」
「ん?・・・磯じ◯ん!?」
そうです。今朝も目にした磯じ◯んです。
「ただの偶然であろうか」
私は買い物も手につかず、今朝の社用車のドライバーと、今そこにいる青年が同一人物である確率を計算しました。
磯じ◯んの社用車も試食販売も、まずこの近所で見た記憶はありません。そしてあの気弱な運転・・・。
私はあのドライバーとこの青年が同一人物であると断定しました。
しかし断定したからといって何だというのでしょう。
「これも何かのご縁だから買え」と?
そう天からのお告げでしょうか。
いやしかし私は今1ミリも海苔の佃煮に興味はない。こんな蒸し暑い日はトマトそうめんとか豆腐だとか、サッパリとした口当たりのものにしか興味がわかないものです。
「海苔の佃煮とは限らないだろ?」
えっ?
「磯じ◯んと言えば海苔の佃煮の代名詞。そんな知名度のあるものをわざわざ試食販売するわけないだろう?」
私は心の声と対話しながら店内を大きく迂回し、青年の視界の外、背後から様子を伺いました。しかしここからではよく見えず、食い入るように彼の周囲に視線を走らせます。しかし一向にそれらしい商品は見当たりません。
時折背後に視線を感じて青年が振り返るたびに、
「私今、チューブの生姜を物色してるの」
と演じるものの、それももうままならず、私は観念し、前方へ回り込みながらその周囲に積み上げられる商品のラベルをチェックします。そうめんつゆ、そうめん、そうめん鉢・・・。
「磯じ◯ん・・・おろし大根唐辛子入り?」
やっと見つけました『磯じ◯ん』の文字。見慣れない商品のラベルにその文字を見つけました。その横には姉妹品らしい『磯じ◯ん おろし大根柚子入り』もあります。食い入るようにそれらを見る私。
「柚子か。悪くない。189円ならハズレてもあきらめの付く範囲・・・」
そう思考を巡らすところへ
「お味見いかがですが?」
の声。ええもちろん。その覚悟でここに立っているのです。
『おろし大根柚子入り』の容器を手渡す青年。この間も丁寧に商品を説明してくれます。私はそれを受け取りつつ、手に持ったカゴをどうしようか考えていると、
「カゴお持ちしておきますね」
と。
「カゴお持ちしておきますね」
気が利くなぁ・・・ゆとりだなんだと言われてるのは何なんだろう、こんな真摯に仕事に向き合う彼も、ネットの論客にかかれば社畜乙ってことになるんだろうか等々、私がムダに思考を暴走させている間も「冬もお鍋に使えますよ」等々の説明をしてくれ、そんな中味わう『おろし大根柚子入り』はとてもさっぱりと酸味も爽やかで、今朝の出来事で履かせた下駄を差し引いても購入に値する商品であり、たとえステマの烙印を押されようとも、ここに書き記しておきたい事件でありました。
元々の人柄か、仕事で緊張していたためかは不明ですが、 その人の精神はたとえ車というものを介してでも、ここまでオーラとなって発せられるものなのだなぁ、そして社用車を運転する際には謙虚さを心がけておくと酔狂な主婦の共感を得て売上の0.00001%くらいには反映するかも知れませんね、というお話でした。